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落語 お茶漬けでも    

【主な登場人物】
 大阪の男  京都の女
【事の成り行き】
 関西に住んでる人が「京の茶漬け」と聞くと、ハハ~ン……と、その意味するところはすぐ分かるのですが、関西から遠ざかるにつれ「京都には美味しい茶漬けがあるそうや」きれいに思い違いをされることがあるそうな、ないそうな。

 この噺、トゲを含んでます。これはみんな落語が悪いのです。私はただご紹介してるだけで、わざわざ京都まで茶漬けを食べに行こう、などという気は全くありませんことを申し添えておきます。

 転居などして挨拶状を出すときに、末尾に「お近くにお越しの節は是非お立ち寄りください」という定型句を書きます。これを真に受けて、何の連絡も無しに立ち寄られたんでは、私なんか大いに困ってしまうわけです。ですから、正しくは「お立ち寄りくださるときにはご連絡下さい」となります。

 まさか文字どおりに受け取って、近くに来たから立ち寄るような「非常識」な人間はいてないやろという、暗黙の了解のもとに成り立つ「挨拶言葉」というやつです。

 同じように京都には、些細な用事で訪問した客が帰る間際「でわ、これでお暇します」「ま、ま、何もおへんけどお茶漬けでも……」という「挨拶言葉」があまして、まさかお茶漬けぐらいで座り直す「常識無し」の客もおらんやろ、という常識を打ち砕いてしもたろか。と考えた大阪人がいてたらどうなるか……、この噺はそのシミュレーションの一例みたいなものです。

■ごめんを……こんにちわ
●まぁ、まぁお珍しい、どぉぞこちらへ
■ご無沙汰しとります。今日はこちらの大将にどぉしてもお目にかからんならん事ができて出向いて来ましたんやけど、ご在宅で……
●はぁ、鈍なこって……朝からちょっと用足しに行く言ぅて、留守にしとりまんのどっせ

■さよか~、何時ごろお帰りか分かりまへんやろかなぁ?
●いつものよぉに二、三軒回ってくるわぁ、言ぅて出たんだっけど、思わん早よ帰って来ることもあるんでっけどな、どぉかすると日の暮れになることも……
■さよか~、せっかく大阪から出て来たんやさかい、ちょっと待たしていただいたら、いきまへんやろかなぁ?
●さぁどぉぞ、むさ苦しいとこどすけど、ま、お座布お当てなしておくれやす。

■こないだ、大将、うち来てくれはりましたんだす
●そぉそぉ、あの節はえらいご馳走になりましたんやそぉで……
■何をおっしゃる、ご馳走やなんて。前もってお越しやいぅのが分かってたら、何なと用意したんでっけどな、急なお越しやったさかい何のおもてなしもでけぇで……、何ぞないかいなぁと思て台所覗いたら、出入りの魚屋が鯛を一枚持ってきてくれたとこでな、手料理で……
■わたし、昔、道楽しとりまして包丁を持ったことがおましたもんやさかい、引き千切ったよぉな造りこしらえましてな、ワサビのぼっかけで食べていただいたけど、あんなことで良かったかいなぁ思て……

●何をおっしゃいます、久しぶりで美味しいお魚頂いた言ぅて、喜んで帰って来ましたんどすぇ。
■それやったら、よろしんでやすけどなぁ。こちらの大将やなんかお口が肥えてるのに、あんなことでお気に入るはずが……(茶ぁも出んな、この家は)……酒だけは灘の蔵出しが丁度一升有ったんで「こらちょっといけますで、冷やで一杯どぉだす?」っちゅうたら「湯飲みでもらうわぁ」っちゅうて、よ~さん呑んでくれはりましてな…
■まぁ、鯛のぶつぎりに冷や酒でも、灘の酒やからっちゅう事で堪忍してもろたよぉなわけで

●何をおっしゃるやら、ほんまに。うちではそんな結構なお酒なんか、なかなか呑まれしまへん
■いぃ~やそんな事ありますかいな、ここの大将はお酒の方もうるさい口ですわいな……。いや、その時に思い出してたら、今日こないして出て来ることなかったんでやす。
■今日かて、お目にかかったら十分もあったら片付くよぉな、ちょっとした事やねんけども、やっぱり会(お)ぉてお話せん事にはいかんので、こぉやって出てこんならん事になったよぉなこって。あの時は鯛に掛かりっきりになってたもんで、コロッと忘れてしもて……どちらへお邪魔してなさるとか分かりまへんやろかなぁ?

●それが~、どこへ行ったもんやら……
■さいでやすか。……何時ごろでっしゃろなぁ、今?

●さぁ、もぉかれこれお昼前かいなぁと思いまんねやが…
■お昼ねぇ……わたしもさいぜんからお腹の具合が……かいなぁとか思たりしとりましたんで、そぉですか、昼ですか。……(こたえんなぁ、こら)

■あのぉ~、この辺にちょっと食べるもん取ってもらえるよぉなお店かなんかおまへんやろかなぁ? うどん屋でもえぇんでっけどなぁ
●それが、この辺は不細工な所どしてなぁ、何ぁんにもあらしまへん。……へぇ、新京極の方へお越しやしたらお店が仰山にございますけど……

■新京極、えぇとこや と聞いとりますけど、近いんでやすか、ここから? ……はぁ、だいぶ遠い……(あかんなぁ、こら)
■えらいどぉも、お邪魔を致しました。お昼時分にこぉやって座り込んで…。実はな、こっちへ出て来たついでに二つ三つ済まさんならん用事がおましてな、大将お帰りになりましたら、わたしが会いたがってたといぅことだけお伝え願いたいんで……

●まぁまぁ、せっかくのお越しどしたのに、主が留守で、お愛想ございまへなんだなぁ、申し訳ない……あの、何にもおへんのどすけど「ちょっとお茶漬けでも」


 この嫁はんもここまで頑張ったんやさかい、もぉちょっと辛抱したらえぇもんを、癖になってしもてるもんやさかい、相手が背中を向けるとつい「お茶漬けでも」出てしもたんです。こっちはこの一言を言わしたさに大阪から出て来とぉるヤツでっさかい「さよか、えらいすんまへんな、ほんなら」と座り込んでしもたんです。
 「しもた」と思たけどしゃ~ない。もぉ逃げる訳にはいかんと台所の方へ入ってまいりましたが、このおかみさんも決してそんなケチな人やないんです。さっきから謎掛けてるのも十分に分かってますのやけれど、どこのお家にもご飯の都合といぅのがありまして、朝亭主がいつもよりよぉけ食べてしもて、底に心ぼそぉ残ってるご飯、足りるかいなぁと思案しながらよそて、へりに付いた飯粒一つ残らずこそげて、よぉよぉのことで軽るぅ~に一膳こしらえまして、たっぷりとお茶を注いで、漬けもんと箸……


●ほんまにお恥ずかしいよぉなこってすけど、お口汚しに……
■えらいすんまへん。こちらでお昼まで頂戴するとは……お言葉に甘えて……(ほんまの茶漬けやなぁこら。冷や飯でもえぇから、一膳つけたらどや)……頂きます(ズズ)……お茶がよろしなぁ、やっぱりご当地は宇治が近いさかい常からこんなえぇお茶使こてなさる。
■スグキ。これ好きだんねん。大阪にかて売ってまっせ、売ってるけれども何とのぉ味が違うよぉに思いまんなぁ……(ズズ)ん、うまい! お漬けもんはやっぱり京都でやす。(ズズ)こんなうまいお漬けもんあったら、ほか何にもいりまへんわ。……(もぉしまいやで)……(こっち向け)……(一膳飯っちゅうのはないで、あっち向いて座ってけっかる……こっち向け)…

■ブホッ! もぉ~し、このお茶碗はえぇお茶碗でんなぁ。清水焼でんな。藍の具合が何ともいえん、どないだ、この糸底の面白いかっこ。こんなん土産に五つほど買ぉて帰りたいなぁ。……このお茶碗どこでお求めになりました? と、空の茶碗を突き付けますと……、嫁はんももぉ逃げてられしまへん。負けん気で、お櫃の蓋とって向こぉへ突き出して……

【さげ】
●へぇ、これと一緒に、そこの荒もん屋で買いましてん。

【プロパティ】
 酸茎(すぐき)=スグキナの漬物。酸味と独特の香気がある。 京都の名産。
 酸茎菜=カブの一品種。京都付近で多く栽培。根は短い倒円錐形で、長さ約20cm、径約8cm。漬物・煮物にする。

【作成メモ】
 ●参 照 演 者:main=桂米朝 sub=桂文枝
 ●main高座記録日:1989/**/**  ●番  組  名:米朝落語全集(MBS)
 ●ファイル公開日:1998/03/01  ●江戸落語相当:*
 ●更  新  日:2001/10/17  ●リクエスト数:
 ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。記録日のmain演者によるさげを採用しました。

丸太町 十二段家
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